COLUMN|AI導入

AIは「具体」が得意で、「抽象」が苦手 ― ルンバは片付いた床でしか働けない

ホーム›コラム›AIは「具体」が得意で、「抽象」が苦手 ― ルンバは片付いた床でしか働けない

AIは「具体」が得意で、「抽象」が苦手 ― ルンバは片付いた床でしか働けない

AI導入2026年10月19日 文:根岸 和希(合同会社TRYANCE 代表社員)

「AIを入れたのに、便利になると思ったのに、結局使えていない」。セミナーでこう聞くと、多くの方が手を挙げます。

原因はAIの性能ではありません。AIが得意なこと・苦手なことを知らないまま、整っていない業務に載せてしまうことにあります。

AIが得意なのは「具体作業」

AIは、やることが決まっている作業なら、人より速く、疲れず、ブレずにこなします。

  • 文字起こし・議事メモ
  • 文章の要約・清書
  • データの入力・転記
  • 決まったルールでの分類・チェック

条件は1つだけです。「何を入れて、何を出すか」が決まっていること。

苦手なのは「抽象的なこと」

一方で、バラバラの具体から共通点やルールを見つけ出すことは、AIの苦手分野です。

  • 目的を決める:「そもそも、何のためにやる?」
  • 共通点を見つける:「この3件、何が同じ?」
  • 書かれていない判断:「いつもと何か違う…」
  • 前提を疑う:「この作業、そもそも必要?」

人は「具体」と「抽象」を行き来しながら仕事をしています。具体をまとめて目的やルールにし、ルールを手順に落とし込む。この行き来を「構造化」と呼びます。

AIに任せるには、人が業務を構造化して渡す
AIに任せるには、人が業務を構造化して渡す

抽象化は人の仕事です。AIは、人が決めたことを速く回します。AIに任せるには、人が業務を構造化して渡す必要がある。それが「業務設計」です。

ルンバは、片付いた床でしか働けない

ルンバに部屋を掃除してもらうとき、スイッチを押す前に何をするでしょうか。床に落ちている物をどけるはずです。

床が散らかっていると、ルンバは物にぶつかって止まり、掃除したい場所に届きません。床が片付いていれば、任せておくだけで隅々まできれいになります。AIも同じです。目的・前提・入力と出力が整理されていれば、AIは使いこなせます。

ただし、一度片付けても、水曜にはまた床に物が出てきます。「使ったら戻す」という置き場所とルールを家族で決めて、はじめて毎日動かせるようになります。

ルンバの話業務の話
一度、床を片付ける業務を棚卸しして、整理する
片付け続ける仕組み手順・ルールを決めて、標準化する
ルンバAI・システム

先に整えるべきは「道」

整っていない業務にAIを入れるのは、凸凹の道に高級車を走らせるようなものです。例外のたびに止まり、結局人が確認することになります。道が整う前に特注の車を作り始める(既存のツールで足りるのにスクラッチ開発する)と、高額なうえに現場に合いません。

道を下から整えてから、最後に車を選ぶ
道を下から整えてから、最後に車を選ぶ

順番は下からです。目的をはっきりさせ、業務を見える化し、手順と判断を揃える。そこまでやって、初めて「車」としてのAIやシステムを選びます。

手段も「下から」選ぶ

引っ越しの荷造りが大変なとき、いきなり業者のおまかせパックを頼む前に、そもそも持っていく物を減らす方が効きます。業務も同じです。

手段は下から順に検討する
手段は下から順に検討する

まず「やめる・減らす」。次に、Excelやチェックリストで型を揃える。既存のツールで回し、判断が明文化された所にAIや自動化を載せる。個別開発は、どうしても足りない所だけです。右へ行くほどコストとリスクが大きくなります。

AIには「業務設計ごと」頼む

AIへの頼み方にも、業務設計がそのまま効きます。「議事録をまとめて」とだけ頼むと、毎回まとめ方がぶれます。目的・入力・出力・判断基準・例外を指示に入れると、誰が使っても同じ品質で返ってきます。

目的:商談の内容を、次の打ち手が決まる形で残す
入力:商談の文字起こし(以下に貼り付け)
出力:①決まったこと ②相手の課題 ③こちらの宿題(担当・期限つき) ④次回の提案のたたき台
判断基準:金額や期限が出た発言は、必ず原文のまま残す
例外:発言者が分からない部分は「要確認」と書き、推測で埋めない

人が決めた「型」をAIに渡すこと。これが、AIを使いこなすいちばんの近道です。

AIとシステムを組み合わせて、業務の流れに組み込む

AIは単体で使うより、普段の業務の流れに組み込んだときに力を発揮します。たとえば次のような組み合わせです。

業務仕組み人がやること
問い合わせ対応フォームの回答をスプレッドシートに集め、AIが内容を分類して担当者のSlackに通知優先度の判断と、お客様への返信
商談の記録打ち合わせの録画をAIが文字起こし・要約し、顧客管理ツールに自動で記録次の提案の中身を考える
月次の集計売上や工数をツール間で自動連携し、AIが前月との差と気になる点をコメント数字を見て、打ち手を決める

どれも、AIが受け持つのは「決まった形の作業」、人が受け持つのは「判断と対話」です。この線引きを先に決めておくことが、AI・システム導入の成否を分けます。

AI・システムは、入れてからが本番

設計の段階では気づかなかった不備は、運用して初めて表に出ます。思ったように動かない、例外が多すぎる、判断の前提が違っていた。そのとき原因を見極めて直せるかどうかは、業務が構造化されているかで決まります。

AIやシステムに作業を任せられれば、人は目的を決め、判断し、お客様と向き合う仕事に時間を使えます。AIを活かす業務設計は、人にしかできない仕事のための準備だと考えています。

自社の業務のどこにAIやシステムが効くか、まずは無料で診断します。

課題が整理できていない段階で構いません。売り込みはしません。

コラム一覧へ